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「重陽 菊のお椀|福岡、西中洲の和食、日本料理 ゆるり」

菊椀
9月9日は「重陽」。
中国で言う「陽数」、日本の奇数の最高数である「9」を重ねる日を祝った事が由来らしい。
菊酒を飲み、栗飯を食べて不老長寿を祝う。中国の菊慈童の長寿伝説に基付く菊の葉の露にあやかった祝い事である。

正直、栗はいま少し早い。今年は夏が短かったので熟れるのも早いだろうが、如何せん台風のあおりを受けたため豊作とは言い難いようだ。もう少し大きくなってから使おう。
菊酒も風情はあるが、「酒」との相性はイマイチのような気もする。ゆるりで扱っている酒は香りがやや強めなので菊の香りとケンカするし・・・。

しかし、九月は「菊月」とも呼ばれる月なのでやはり菊は欠かせない。そこで今回は「菊椀」とする。古典的な料理でもあるが「斬新」にして何か「新しい」といったところか。

このお椀の肝は「菊」と「梨」である。日本料理では「梨」=「無し」ということで献立には「有りの実」なんて表記もされる。なぜ「梨」を入れるかというと「梨」の香りと「菊」の香りが良く似ているおり、お椀の蓋を開けたときに「菊の良い香り」を楽しんでもらう工夫の1つである。味は想像しにくいかもしれないが「美味しい蕪の土臭さがないやつ」みたいな感じであまり違和感はない。

菊は生を酢水で湯がき、さらした後に薄味でさっと炊く。炊きすぎると味も風味も落ちるので本当にさっと。梨は拍子に切ってこれまたさっと炊く。出来れば芯に近い甘味が弱く歯ごたえの良いところだけ使いたい。甘味が強すぎると菊の味とのバランスが難しいし、主役はあくまで「菊」である。今回は鱧をいれているが無くても良い。入れる場合は鱧が主張しすぎないように、且つ、鱧の味も活かしながら菊と梨を共に楽しめるように小さめに落とし(今回は三枚で落としている)軽く炊いておく。何回も温め直すと風味や食感が損なわれるのですべてお椀に盛り付ける直前に炊くのがベスト。吸地(お椀の汁ね)も醤油よりも塩で味を調える、また、一番出汁もいつもより鰹節を少なくしやや昆布が勝つ程度のものを使っている。地味かもしれないがここに松茸や青柚子なんかいれたらすべて台無し。具は多いが「実の無い料理」、この料理は「菊の香りを楽しむ」ための料理である。

おそらくは昔は「生の菊」が手に入りにくく、乾燥菊(板菊)なんかを使っており、菊のフレッシュな香りに乏しかったためこういった工夫を思い付いたのだろう。すごい感性だ。

先人の知恵や工夫に改めて思う。
「日本料理は面白い」。
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